このコラムを読んでいる多くの方は、首長や議員の公約をよく目にしていると思います。私自身もサイト構築の過程で数多くの公約を読んできました。
しかし正直に言えば、その多くが社会課題を正確に捉えられていないと感じています。
なぜ政治には、「独りよがり」「自己満足」「票集め」の公約があふれてしまうのか。 本コラムではその原因を整理しながら、本来あるべき公約の作り方と選び方を解説します。
目次
- 公約とは本来何か
- 日本の公約が抱える根本的な問題
- 公約と社会課題はセットで成立する
- 「公約もどき」の典型例
- 良い公約の作り方 ― 4つのプロセス
- 公約の評価方法 ― 有権者がすべきこと
- 終わりに ― 公約を「社会課題の解決」へ戻すために
公約とは本来何か
公約とは文字通り「公(社会)に対する約束」です。
約束である以上、当然結果に対する説明責任が伴うのは当然のことです。
仕事や日常生活に置き換えてみてください。私たちは約束を守れなかった時、必ず理由を説明します。
- 電車遅延でミーティングに遅刻する → 遅刻理由を伝え、謝罪する
- 納期に間に合わない → なぜできなかったのかを説明し、次の対応策を提案する
本来、政治においてもこれは例外ではありません。
しかし残念なことに、日本の政治では「公約を掲げる」ことだけが重視され、「達成されたかどうかは説明しなくてよい」という無責任な構造がまかり通っています。
日本の公約が抱える根本的な問題
現在の選挙において、公約は次のように扱われることが少なくありません。
- その場しのぎの「耳障りの良い」スローガン
- 一部の団体・支持層への迎合
- あえて具体性を欠くことで、実行・検証・追及を避ける記述
結果として、
- 「選挙中だけ公約が使われる」
- 「選挙後は誰も確認しない」
- 「達成できなかった理由の説明もない」
という無責任なサイクルが常態化してしまっています。
この構造こそが、公約の質が改善されず、選挙のたびに曖昧で検証不能な公約が量産され続ける最大の原因です。
公約と社会課題はセットで成立する
政治は本来、社会課題を解決するための装置に過ぎません。
したがって、公約は次の2点が揃って初めて意味があります。
- いま(または近い将来)起きている社会課題は何か
- その課題がどうなったら「解決」とみなせるのか
つまり、
公約達成 = 社会課題の解決
となるはずです。
もし社会課題が明確でなければ、どれだけ政策を実行しても「それが成功したのか/意味があったのか」を判断できません。逆に、社会課題が明確であれば、公約の成否は事実に基づいて検証できます。
「公約もどき」の典型例
多くの公約は次のどちらかに陥っています。
① 社会課題の羅列(ゴールがない)
- 経済を良くする
- 財政を健全化する
- 少子化対策を進める
- 防災を強化する
→ 「解決した状態」が定義されていないため、何をもって達成とするかが検証できない。
② 手段の羅列(目的がない)
- 教育の無償化
- 〇〇の増税・減税・補助金
- 防災庁の創設
- △兆円の経済対策
→ 「何の社会課題を解決するためにやるのか」が示されていない。
ゴールを示さずに「〇〇を推進する」「〇〇を改善する」と言われても、評価のしようがありません。
また、政策(手段)の実行自体を目的にしてしまうと、たとえそれを実現しても、肝心の社会課題が解決しないという本末転倒な事態が起こります。
この「手段の目的化」は、公約以外にも表れています。
- 駅頭での演説回数
- 議会での質問回数
- SNSでの活動報告
といった「努力量のアピール」が評価の中心になってしまっている現状です。
政治家の本来の仕事は「努力を見せること」ではなく、「社会課題を解決すること」であるはずです。
良い公約の作り方 ― 4つのプロセス
以前『日本の社会課題を解決するために必要な4つのプロセス』で述べたように、社会課題を正しく扱うためには次の4段階が必要です。
社会課題解決のために必要な4つのプロセス
- 発見:何が起きているか
- 相対化:構造を分解する
- 定義:あるべき姿を決める
- 定量化:数値目標に落とし込む
例:日本経済の場合
| プロセス | 内容 |
|---|---|
| 発見 | 経済成長率が30年間低迷している |
| 相対化 | マクロ(国)とミクロ(企業・個人)に分けて考える |
| 定義 | GDP、日経平均、実質賃金などで「良い状態」を定義 |
| 定量化 | GDP成長率2%維持 / 日経平均5万円台維持 / 実質賃金2%上昇 |
→ ここまで定義してはじめて対策(政策手段)を語る意味が生まれます。
例:対策
- 成長産業・スタートアップ減税
- 若年世代への教育投資
- イノベーションを促す規制改革
これらすべての手段は、「定量化された目的」を達成するために存在します。
「なぜその政策が必要なのか」を社会課題から逆算して説明できること。
それが、単なるスローガンではない、「仮説と検証可能な解決計画」としての公約です。
公約の評価方法 ― 有権者がすべきこと
最も重要なのは、選挙の後です。日本では「政策を実行した = 仕事をした」と捉える傾向がありますが、本来評価すべきは「社会課題が解決されたか」の一点です。
仮に政策を実行しても、
- GDP実質成長率が伸びない
- 株価が上がらない
- 実質賃金が上がらない
のであれば、公約は達成されたとは言えません。
定量化したゴール(目標設定)を実現して初めて公約達成したことになります。
同時に、有権者には「失敗の理由を聞く姿勢」も求められます。 公約未達の際、単純に責任を追及して終わりにするのではなく、「なぜ解決できなかったのか」の説明を求めるべきです。
- 予算配分が適切ではなかったのか
- 対象が的外れだったのか
- 制度設計が不十分だったのか
論理的に失敗要因を説明できる政治家には、修正のチャンス(セカンドチャンス)を与えるべきでしょう。逆に、何年かけても課題が解決せず、失敗理由も説明できない場合は、その課題を解決できる別の政治家を選ぶ必要があります。
「説明も検証もないまま次の選挙に進む」ことこそが、日本の政治停滞の主犯なのです。
終わりに ― 公約を「社会課題の解決」へ戻すために
日本政治の最大の問題は、社会課題が放置され続けても、誰もその責任を取らないことです。
この状況を変えるには、政治家と有権者の双方が変わる必要があります。
- 政治家:「社会課題の解決」を起点とした、検証可能な公約を作る。
- 有権者:「達成状況」を確認し、結果に基づいて評価する。
の両方が不可欠です。
政治家・有権者・行政が、 「公約 → 社会課題の解決」という共通のプロセスを持つことができれば、自治体であれ国であれ、政治は必ず良くなります。
「解決すべき社会課題とは何か」を考えることは政治家だけの役割ではありません。
私たち有権者が社会課題を理解し、公約を正しく評価できる社会になることこそ、民主主義の成熟です。
公約は人気取りの道具ではなく、社会課題を解決するための公の約束です。
この当たり前の視点を、社会全体で取り戻すことが今私たちに求められています。