「給料は上がっていると聞くのに、なぜ生活は楽にならないのか」この疑問を感じている人は、決して少なくありません。
ニュースでは賃上げや景気回復が語られています。それでも、スーパーでの会計や光熱費の請求書を見ると、むしろ苦しさは増している。 この違和感は感情の問題ではなく、数字と構造の問題です。
物価高と生活の苦しさの正体は、いくつかのポイントを押さえることで見えてきます。
目次
「給料が上がっている」のに苦しい理由
まず、必ず確認したいのが実質賃金です。
実質賃金とは、「給料の増減から物価上昇の影響を差し引いたもの」を指します。 たとえ給料の額面(名目賃金)が上がっていたとしても、物価の上昇のほうが大きければ、実質賃金は下がります。
👉 実質賃金がプラスかマイナスかを見ることで、生活が楽になっているかどうかが分かる
賃上げという言葉だけを聞いて安心するのではなく、その裏で実質賃金がどう動いているのかを見る必要があります。多くの人が感じている「苦しさ」は、数字としても説明がつくものです。
物価はなぜ上がり続けているのか
もう一つ重要なのが、消費者物価指数(インフレ率)です。
これは、私たちが日常的に購入するモノやサービスの価格が、どれくらい上がっているかを示す指標です。
まず、円安による輸入物価の上昇です。
日本は食料やエネルギーを海外からの輸入に大きく依存しています。円安が進めば、同じ量の輸入でもより多くの円が必要になります。その結果、原材料費やエネルギーコストが上がり、最終的には商品やサービスの価格に転嫁されます。
畜産業で使われる飼料の多くも輸入品です。円安によって飼料価格が上がれば、肉や乳製品の価格も上がります。電気代やガス代の上昇も、ほぼすべての産業に影響を与えています。
さらに重要なのが、少子高齢化による人手不足と人件費の上昇です。 働く人の数が減る中で、企業は人材を確保するために賃金を引き上げざるを得ません。飲食、物流、介護、建設など、多くの分野で人件費は上昇しています。
この人件費の上昇も、商品価格やサービス料金に転嫁されます。そして少子高齢化は今後も続くため、この流れは一時的なものではありません。
つまり現在の物価高は、
- 円安による輸入コストの上昇
- エネルギー価格の高止まり
- 人手不足による人件費の上昇
という構造的な要因が重なった結果なのです。
可処分所得を静かに削る社会保険料
物価上昇と並んで、私たちの生活を圧迫しているのが社会保険料の増加です。 給料明細を見ると分かるように、社会保険料は年々増えています。
可処分所得とは、税金や社会保険料を差し引いた後、自由に使えるお金のことです。 たとえ給料が少し上がっても、物価が上がり、社会保険料が増えれば、手元に残るお金は増えません。
この点について、政治が直接できることは限られています。 政治が調整できるのは、「可処分所得をどこまで削らないか」という部分までであり、一人ひとりの給料を直接引き上げることはできません。
個人はどうすればいいのか
こうした現実を前にすると、「結局、全部自己責任なのか」と感じるかもしれません。
しかし、個人が選べる道がまったくないわけではありません。
現実的に、所得を増やす手段は限られています。転職や副業は、その代表例です。ただ、より本質的なのは、生産性をどう高めるかという視点です。
前年と同じ働き方、同じ価値観のままで、所得が上がり続ける時代ではなくなっています。
生産性を上げるとは、例えば次のようなことです。
- 同じ時間で2倍の成果を出す
- より高い価値の商品やサービスを提供する
- 半分の時間で同じ成果を出す
- 半分のコストで同じ成果を出す
言い換えれば、「働く量」ではなく、「生み出す価値」を変えることです。
私たちは、「これまで通り働けば報われる」という価値観を、見直す必要があるのかもしれません。
政治と個人、それぞれの限界
ここまで見てきたように、政治と個人には、それぞれ明確な限界があります。
政治は、円安やエネルギー政策、社会保険制度といった環境条件を整えることはできます。しかし、個々人の給与水準や働き方そのものを直接決めることはできません。
一方、個人は自分の働き方やスキルを変えることはできますが、為替や人口構造、社会保障制度を変えることはできません。
この役割分担を混同すると、「政治が悪い」「自己責任だ」という単純な議論に陥ってしまいます。
政治と個人で、それぞれやるべきこと
では、現実的に何を考え、何を選ぶべきなのでしょうか。
政治がやるべきこと
- 円安による輸入物価の影響を緩和する政策
- エネルギー価格の安定化
- 社会保険料の上昇を前提にした、負担の公平性の議論
- リスキリングや労働移動を支える環境整備
政治の役割は、「すべてを解決すること」ではなく、個人が選択しやすい土台を整えることです。
個人が考えるべきこと
- 物価や実質賃金といった数字に目を向ける
- 所得を上げるための選択肢を現実的に考える
- 生産性を高める方向に、自分の働き方を見直す
政府の支援は、あくまで補助です。最終的にどんな働き方を選ぶかは、自分自身の問題になります。
おわりに
物価高と生活の苦しさの正体は、実質賃金の低下、物価上昇、可処分所得の圧迫という、はっきりした構造の中にあります。
政治の言葉に振り回されるのではなく、数字と現実を見ること。
それは、諦めるためではなく、考え、選ぶために必要な姿勢です。
苦しさの理由が分かれば、見える景色は少し変わります。次に何を見るのか、何を選ぶのか。
政治においても個人においても私たち一人ひとりに、その判断が委ねられています。