2025年10月に宮城県知事選挙が、11月には広島県知事選挙が予定されています。どちらも、その地方を引っ張っていく自治体であり、非常に大切な選挙です。
しかし、正直なところ、「誰が知事になっても、自分の生活はたいして変わらないんじゃないか?」と感じている人も多いのではないでしょうか。
このコラムでは、宮城県と広島県が抱える具体的な課題を手がかりに、都道府県という大きな自治体が、本当に解決すべきことは何か、そして私たちが「どうせ変わらない」と思ってしまうのはなぜか、その理由を探っていきたいと思います。
目次
地方の衰退は「対岸の火事」ではない
まず、目を向けなくてはならないのが、地方がどんどん活気を失っているという現実です。特に、若い人たちが都会へ出て行ってしまうことで、「人口減少」の流れは止まらず、このままでは将来的に「消滅してしまうかもしれない町」が増えていくと言われています。これはもう、待ったなしの危機です。
宮城県も広島県も、地域の中では中心的な役割を担っていますが、その内側では「都市と地方の格差」が広がっています。
宮城県(東北)
東日本大震災からの復興の歩みを着実に進める一方で、仙台市への人口集中が続き、それ以外の地域で生活を支えるお店や病院の維持が難しくなっています。
広島県(中国)
自動車産業など頼れる産業がありますが、若者の関東や関西への流出は止まらず、山間部や島しょ部では、高齢化が進み、地域のコミュニティを維持することが難しくなっています。
両県が抱えるこれらの課題は、実は日本全国の多くの地方自治体が共通して直面している問題の「縮図」です。共通する「重い課題」は次のようなものです。
1.古いインフラの維持
どんどん古くなっていく道路や水道管などを、少ない税金でどうやって修理し、維持していくか。
2.お年寄りを支える仕組み
高齢者が増える一方で、働く世代が減り、医療や介護にかかる費用をどう確保していくか。
3.災害から命を守る
広大な県土の中で、いつ起こるかわからない地震や豪雨から、県民の命と暮らしを守る体制をどう築くか。
これらはすべて、知事というリーダーが、目先の仕事だけでなく、10年、20年先を見据えて手を打たなければならない問題です。
「誰がやっても同じ」はなぜ生まれるのか
では、なぜこれほど重要な選挙なのに、「どうせ誰がやっても変わらない」という無関心が生まれてしまうのでしょうか。
大きな理由の一つは、「行政の仕事が見えにくい」ことです。
サービスは国が決めたルール通り
日々の行政サービス(教育、福祉、警察など)の多くは、国が定めた法律や基準に基づいて行われています。そのため、知事が代わったからといって、サービスの質や内容がガラッと変わることはめったにありません。
課題が抽象的すぎる
「地域経済を活性化します」「子育て支援を充実させます」といったスローガンはよく聞きますが、これらはあまりにも漠然としすぎているため、「この人を選んだら、自分の町が具体的にどう変わるのか」がイメージできません。
知事という立場の人が、大きな問題を「なんとなく頑張ります」で終わらせてしまうと、私たちはその人のリーダーシップや政策の違いを見分けられず、結果として「誰でもいい」という諦めにつながってしまうのです。
課題を「見える化」する
この悪循環を断ち切るために、知事というリーダーに求められるのが、行政の課題を「イシュー化(具体的な問いに変えること)」し、「その課題が解決したらどんな状態になるか」をはっきり示すことです。
課題を「イシュー化」するとは、単なる問題提起で終わらせず、「この知事の任期中に、いつまでに、どこまでやるか」を約束することです。
例えば、以下の抽象的な課題を、次のように変えてみます。
若者の流出
1. 抽象的な課題 (現状認識)
若者の流出
2. 具体的な問い(イシュー)
「5年後までに、県外へ出ていく20代の割合を今より5%減らすために、企業誘致やインターンシップをどう強化するか?」
3. 解決した状態(目標)
5年後に20代の県外転出率が、はっきりと5%下がっている状態。
医療不足
1. 抽象的な課題 (現状認識)
医療不足
2. 具体的な問い(イシュー)
「山間部から車で30分以内に病院がある住民の割合を95%以上に保つため、地域医療のネットワークをどう再編するか?」
3. 解決した状態(目標)
病院の統廃合後も、設定した住民割合が維持できている状態。
このように、具体的な数字と期限で目標を区切り、「知事を選ぶことの価値」を有権者に明確に提示できたとき、私たちは初めて、候補者それぞれの政策を真剣に比較検討することができます。
しかし現状、多くの候補者が、この「イシュー化」と「未来の見える化」を明確にできていません。目の前の予算配分や国の施策に頼るのではなく、自分の手で県の未来を定義する覚悟を持つことが、地方行政のトップには今、最も必要とされています。
おわりに:選挙を「未来を選ぶ機会」に
宮城県と広島県の知事選挙は、私たちが住む町の将来を考える、非常に大切な機会です。
私たちが「どうせ変わらない」と諦めてしまうのではなく、候補者に対し「あなたの任期中に、私の生活のこの部分を、具体的にどう変えてくれるのか?」と問いを突きつけることが重要です。
地方の衰退が加速する時代だからこそ、課題を隠さず、その解決した姿を明確に描けるリーダーを選び、自分の手で地方の未来を切り開いていく。その意識こそが、私たちの町に活気を取り戻すための第一歩となるのではないでしょうか。