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横浜市の課題

公開:2025/6/10

サマリー

横浜市は、総人口約377万人を擁する日本最大の政令指定都市であり、神奈川県の経済において中核的な役割を担っています。しかし、その規模と経済力に比して、2025年の市長選挙を前に、複数の構造的な課題に直面しています。これらの課題を定量データに基づき分析し、次期市長が取り組むべき主要な争点と、その解決によって目指すべき都市の将来像を考えます。

主要な課題としては、 加速する人口減少と少子高齢化、それに伴う社会保障費の増大、見かけの財政規模とは裏腹の財政硬直化、膨大な都市インフラの老朽化、そして地域経済の持続的成長と多様な働き方の推進が挙げられます。これらの課題は相互に深く関連しており、単一の政策で解決できるものではなく、複合的なアプローチが求められます。

2025年の横浜市長選挙は、これらの複合的な課題に対し、将来を見据えた政策を策定・実行するリーダーを選ぶ重要な機会となります。候補者には、現状を客観的なデータに基づき深く理解し、市民との対話を通じて長期的なビジョンと具体的な解決策を提示する能力が強く求められます。本稿が示す定量的な現状と理想の姿は、政策議論の基礎となるものです。最終的な目標は、持続可能で強靭、かつ市民一人ひとりが豊かさを実感できる、活力ある横浜の実現にあります。

1. はじめに:本稿の目的

横浜市は、総面積435.43平方キロメートルに約377万人(2024年8月時点の住民基本台帳人口は3,771,769人)が暮らす、日本最大の政令指定都市であり、日本の自治体の中で最も多くの人口を擁する都市です。 その経済規模も特筆すべきものであり、令和4年度の名目市内総生産は14兆7630億円に達し、これは神奈川県の県内総生産の42.0%、国内総生産の2.6%を占める規模です。また、年間2,500万人以上(2021年度)が訪れる観光都市としての顔も持ち、多様な魅力を有しています。

このような大都市である横浜市が、2025年の市長選挙を迎えるにあたり、その将来を左右する複合的な課題に直面しています。人口構造の変化、財政の持続可能性、都市インフラの維持管理、地域経済の活性化への対応は、市民生活の質と都市の活力を直接的に規定する喫緊のテーマです。次期市長には、これらの課題を深く理解し、将来を見据えた政策を策定し、実行する強力なリーダーシップが期待されます。

本稿は、横浜市が現在抱える主要な課題を、入手可能な定量データに基づき客観的に分析することを目的とします。さらに、これらの課題が解消された場合の「理想の横浜」の姿を具体的に描き出し、2025年横浜市長選挙における主要な争点を明確に提示します。これにより、政策立案者や市民が、より情報に基づいた意思決定を行うための基礎資料を提供します。

2. 横浜市が抱える主要な課題と現状

2.1. 人口構造の変化と社会保障費の増大

横浜市は、日本全体が直面する人口減少と少子高齢化の波を強く受けています。市の人口は2021年に約377.9万人でピークを迎え、その後は減少傾向に転じています。住民基本台帳人口は2024年1月1日時点で3,752,969人であり、前年比で-0.02%とわずかながら減少に転じていることが確認できます。

この人口減少の主要な要因は、出生数の減少が出生率の低下を伴い、死亡数を下回る「自然減」にあります。2023年の人口動態調査によると、日本人出生数は22,190人であったのに対し、日本人死亡数は38,964人であり、大幅な自然減が発生しています。2023年の出生率は人口1000人当たり6.12人で、全国815市区中250位と、相対的に低い水準にあります。一方で、国内からの転入超過数は2023年に7,543人となり、「社会増」が継続していることは、人口減少の緩和要因として機能しています。

将来の人口推計では、中位推計に基づくと、横浜市の人口は50年後には約20%減少し、301万人になると予測されています。この人口減少は、特に生産年齢人口(15~64歳)の減少を伴います。2020年10月1日時点の国勢調査では、生産年齢人口割合は63.2%でしたが 、この層の減少は、市の基幹税目である個人市民税や法人市民税の減収に直結し、財政基盤を弱体化させる要因となります。

横浜市人口推計(2020年~2070年)
出典:横浜市将来人口推計

高齢化の進行も顕著です。2020年10月1日時点の国勢調査人口における65歳以上人口割合は25.1%、75歳以上人口割合は13.2%に達しています。将来推計では、65歳以上人口は2047年に122.7万人でピークを迎え、総人口の約35%を占める見込みです。2000年時点では20~30代が最も割合の高い層でしたが、2020年には40~50代に移行しており、30代以下の割合が縮小する一方で、70~80代の割合が特に女性で拡大していることが、人口構成の変化を明確に示しています。

世帯構造の変化も都市運営に大きな影響を与えます。総世帯数は2030年~2035年でピークを迎え、その後減少に転じると予測されています。家族類型別では「単独世帯」が最も多くなり、18行政区中17区でその割合が増加する見込みです。また、「夫婦のみ世帯」も全区で増加し、「夫婦と子供から成る世帯」は減少すると予測されており、従来の「家族」を前提とした都市計画や社会サービスでは、変化する世帯構造に対応できない可能性が示唆されます。特に、高齢単身世帯の増加は、孤独死対策や緊急時対応、医療・介護サービスの個別化といった新たな行政ニーズを生み出すことになります。

これらの人口構造の変化は、社会保障費(医療、介護、年金等)の増大を確実なものとし、市の財政に複合的な圧力をかけることになります。生産年齢人口の減少は、消費構造の変化(高齢者向けサービス需要の増加、若年層向け消費の減少)、労働力不足、地域コミュニティの維持困難など、多岐にわたる影響を及ぼし、将来の公共サービス水準の維持や新規投資の制約となり、市の持続可能性を脅かします。

市長選挙では、この財政的課題に対する具体的な歳入確保策(例:企業誘致、観光振興)と歳出削減策(例:行政の効率化、公共施設の再編)が主要な争点となるでしょう。また、多様化する世帯ニーズに対応した住宅政策(例:コンパクトシティ化、多世代共生住宅)、地域コミュニティの再構築、きめ細やかな福祉サービスの提供も重要な政策課題となります。

2.2. 財政健全化と持続可能性

横浜市の財政規模は、全国の自治体の中でも突出しています。令和5年度の歳入額は1兆9,567億6,500万円、そのうち市税収入は8,863億400万円で、前年度から190億2,700万円(+2.2%)増加し、2年連続で過去最高を更新しました。市税収入が歳入全体に占める割合は約45.29%です。さらに、市税収納率は99.4%と過去最高を更新しており、徴収が非常に順調であることがわかります。

しかし、この潤沢な歳入規模の裏側には、財政の硬直化という構造的な課題が潜んでいます。令和5年度の歳出額は1兆9,358億7,900万円と全国的に見て非常に大きい一方で、実質収支は74億4,400万円の黒字を維持しています。

財政健全化指標からは懸念すべき状況が読み取れます。令和5年度の実質公債費比率は9.5%であり、前年度から0.2ポイント低下しました。また、将来負担比率は127.2%であり、前年度から2.0ポイント低下しています。これらの比率は早期健全化基準(実質公債費比率25%、将来負担比率400%)を下回るものの、他都市と比較して高い水準にあります。

一般会計が対応する借入金残高は、令和5年度末で3兆38億6千万円に縮減しています。これは、中期計画で設定された令和7年度末までに3兆10億円以下に抑える目標に沿ったものです。

しかし、これらの健全化指標が示す財政の硬直化と将来負担は、人口減少、特に生産年齢人口の減少が市税収入の減収に直結し、財政基盤をさらに弱体化させるリスクを内包しています。財政的な余裕の喪失は、人口減少対策(例:子育て支援、若年層の転入促進)への投資を抑制し、さらなる人口減少を招くという負のスパイラルに陥る危険性も指摘されます。

市長選挙では、この財政硬直化をどのように解消し、将来の投資余力を生み出すかが問われます。歳出構造改革(例:行政のスリム化、公共施設の効率化) 、新たな財源確保(例:企業誘致による税収増、観光振興) 、そして市民への負担のあり方(例:受益者負担の適正化) が議論の対象となるでしょう。財政健全化は単なる数字の改善に留まらず、人口減少社会における都市の活力維持と直結する喫緊の課題です。

2.3. 都市インフラの老朽化対策

横浜市は、その発展とともに整備されてきた膨大な都市インフラの老朽化という、喫緊の課題に直面しています。特に下水道管きょ(給水・排水を目的として作られる水路)の老朽化は深刻です。令和元年度末時点で、横浜市の下水道管きょ総延長は約1万1900kmに及び、人孔(マンホール)は約53万個、取付管は140万個と、膨大なストックを抱えています。

このうち、布設後50年以上経過した管きょの延長は、現在約900kmですが、この老朽化は今後急速に進行すると予測されています。具体的には、10年後には約3,000km、20年後には約8,300km(全体の約70%)が布設後50年以上となる見込みです 。このような大規模な老朽化は、将来的に莫大な更新・修繕費用を必要とします。

下水道管きょの老朽化は、道路陥没事故という形で市民生活に直接的な影響を及ぼします。老朽化対策に着手する前は年間200ヵ所程度発生していた道路陥没事故は、対策により平成19年度以降は毎年50ヵ所程度で推移し、平成30年度は51件と、一定の成果は表れています 。

横浜市は、この膨大なインフラの老朽化に対応するため、従来の「時間計画保全」(経過年数に応じて一律に修繕・更新を行う方式)から、「状態監視保全」(劣化状況を調査し、必要に応じて修繕を行う予防保全型)へと管理方針を転換しています。このアプローチでは、不具合が生じる前に劣化調査を行い、管きょの状態に基づいて修繕時期を決定することで、ライフサイクルコストの抑制を図ることを目指しています。小口径管では年間約1,200kmのスクリーニング調査、中大口径管では年間約150kmの詳細調査が実施されています。

公共施設全体についても、横浜市は令和4年12月に「横浜市公共施設等総合管理計画」を策定し、公共建築物及びインフラ施設の計画的かつ効果的な保全や更新等を推進しています。この計画に基づき、施設の安全確保や長寿命化対策を実施しており、部材の劣化状況やその影響度(法令遵守、市民の安全、施設の寿命、運営への影響)を考慮した優先順位付けに基づき保全を進めています。

しかし、調査した資料からは、上下水道、道路、橋梁といった特定のインフラにおける「老朽化率」の具体的な数値(例:総延長に対する老朽化箇所の割合)や、それらの「維持管理費の推移」に関する直接的な定量データは得られませんでした 。ただし、下水道管きょの「布設後50年以上経過した管きょの延長」は、明確な老朽化の指標として、その規模と進行度を把握する上で非常に有用です。

インフラの老朽化は、道路陥没のような直接的な事故リスクだけでなく、サービス水準の低下(例:断水、下水逆流)、災害時の機能不全、そして最終的には市民生活の質の低下や経済活動への悪影響を招きます。維持管理費の増大は、既に経常収支比率が98.1%と硬直化している市の財政にさらなる圧力をかけ、他の行政サービスへの投資を抑制する可能性があります。

市長選挙では、この「見えない」財政負担に対する具体的な資金計画(例:特定財源の確保、国からの補助金獲得、市民負担のあり方)と、計画的な更新・維持管理体制の強化が重要な争点となるでしょう。単なる修繕だけでなく、人口減少社会におけるインフラの「最適化」(例:統廃合、コンパクト化)といった視点も求められます。

2.4. 地域経済の活性化と産業構造の課題

横浜市の地域経済は堅調な成長を示しています。令和4年度の名目市内総生産は14兆7630億円、実質市内総生産は14兆7576億円であり 、名目経済成長率は0.7%、実質経済成長率は3.1%と、2年連続のプラス成長を記録しています。市民所得も12兆7941億円(対前年度増加率1.9%)、1人当たり市民所得は338万3千円(対前年度増加率1.9%)と、1人当たり国民所得(327万4千円)や県民所得(318万0千円)を上回る水準にあります。これらの指標は、横浜市が強力な経済基盤を持つことを示しています。

しかし、経済全体には潜在的なリスクも存在します。神奈川県全体の景気動向指数(CI一致指数)は2024年6月時点で3か月連続の下降を示しており、広域経済の減速が横浜市経済に影響を及ぼす可能性が指摘されます。また、雇用状況を見ると、就業率(2020年)は52.16%(815市区中559位)、女性の就業率は45.21%(815市区中563位)と、全国的に見て低い傾向にあります。これは、労働力不足や税収機会の損失につながる可能性があり、将来的な経済成長の足かせとなる可能性があります。

観光業は、新型コロナウイルス感染症の影響から力強く回復しています。横浜・川崎エリアの延観光客数は、2023年に7,002万人(前年比+21.9%)に達し、横浜市単独では1,195万人の増加(前年比+28.2%)を記録しました。特に宿泊客数は2023年に1,792万人となり、コロナ禍以前の過去最高記録を更新しました。訪日外国人の増加や全国旅行支援、「ポケモンワールドチャンピオンシップス2023横浜みなとみらいイベント」などの大型イベントが観光客数増加の主要因となっています。

横浜市は堅固な経済基盤を持つ一方で、広域経済の減速や市内の低い就業率は、将来的な経済成長の足かせとなる可能性があります。観光客数の回復はポジティブな要素ですが、特定のイベントに依存する傾向が見られる場合、持続的な経済効果には限界があるかもしれません。また、人口減少・高齢化は、消費市場の縮小や労働供給の制約を通じて、経済成長に長期的な負の影響を与えることが懸念されます。低い就業率は、特に女性や高齢者層の労働参加を促す政策の必要性を示唆しています。

市長選挙では、経済の持続的成長を確保するための戦略(例:新たな産業の育成、既存産業の高付加価値化、国際競争力の強化)、労働力不足への対応(例:女性・高齢者の就労支援、外国人材の活用)、そして観光客の誘致だけでなく、市民の消費を喚起する内需拡大策が問われるでしょう。

3. 2025年横浜市長選挙における主要争点

上記の分析に基づき、2025年横浜市長選挙における主要な争点は以下の通りです。

3.1. 人口減少・少子高齢化への対応

横浜市が直面する人口減少と高齢化は、社会のあらゆる側面に影響を及ぼす根源的な課題です。次期市長には、出生率向上策、子育て支援の拡充、高齢者福祉・医療の充実、地域包括ケアシステムの強化、多世代共生社会の実現、そして若年層の定着・転入促進策が求められます。具体的には、保育・教育環境の整備、医療・介護人材の確保、高齢者の社会参画促進、コンパクトシティ化と住みやすい地域づくり、外国人材の受入れと共生に関する政策の方向性が議論の中心となるでしょう。

3.2. 持続可能な財政運営の確立

横浜市の財政は規模が大きいものの、経常収支比率や将来負担比率の高さが示すように、硬直化と将来への負担が課題です。このため、財政硬直化の解消、社会保障費の抑制と効率化、公共施設マネジメントによるコスト削減は喫緊の課題です。同時に、新たな財源確保(企業誘致、観光振興、MICE誘致)や、市民負担の適正化も重要な論点となります。歳出構造改革の断行、デジタル化による行政効率化、民間活力の導入、国際競争力のある産業の育成、そしてIR誘致の是非と代替案に関する議論が深まることが予想されます。

3.3. 都市インフラの計画的更新と強靭化

老朽化が急速に進む都市インフラは、市民の安全と都市機能の維持に直結する課題です。下水道、道路、橋梁、公共建築物といった老朽化インフラの計画的な更新と維持管理費の確保、予防保全の強化は不可欠です。また、大規模災害に備えた強靭な都市づくり、インフラのスマート化も重要な論点となります。長寿命化計画の着実な実行、技術導入による効率化、国との連携強化、インフラ整備におけるPFI/PPP(官民連携)の活用、防災・減災対策の強化が政策の方向性として示されるでしょう。

3.4. 地域経済の活性化と多様な働き方の推進

横浜市経済は堅調ですが、広域経済の動向や低い就業率といった潜在的リスクも抱えています。既存産業の振興と新たな産業の創出、国際競争力の強化、雇用創出は次期市長の重要な責務です。特に、女性・高齢者・障がい者の就労支援、観光振興の多角化も求められます。スタートアップ支援、イノベーション促進、MICE誘致の強化、国際的なビジネス環境の整備、リカレント教育の推進、多様な働き方に対応した支援策が、経済政策の柱となるでしょう。

4. 課題が解消された「理想の横浜」の姿

横浜市が現在抱える構造的な課題が解消された場合、その都市の姿は以下のように変革されることが期待されます。

4.1. 人口減少社会における持続可能な都市モデル

理想の横浜では、出生率の安定化と若年層の定着・転入促進策が奏功し、人口減少が緩やかになることで、将来推計人口(例:2050年344.9万人)が上振れし、都市の活力が維持されます。高齢者が健康で社会参加できる「生涯現役」社会が実現し、多世代が支え合う地域コミュニティが活性化している状態です。

定量的な目標設定の例

  • 合計特殊出生率が全国平均を上回る水準(例:1.4以上)で維持される。
  • 生産年齢人口の減少率が、2047年までの現状予測(約14%減)よりも低減される(例:10%未満に抑制)。
  • 高齢者就業率(65歳以上)が具体的な目標値(例:30%以上)に向上する。
  • 単独世帯の増加に伴う孤独死件数が具体的な削減目標(例:年間20%削減)を達成する。
  • 多様な世帯構成に対応した住宅供給が進み、住宅の空き家率が低水準(例:5%以下)に維持される。

4.2. 強固な財政基盤と効率的な行政運営

理想の横浜では、財政健全化指標が着実に改善され、経常収支比率が90%台前半に、将来負担比率が全国平均を下回る水準に安定し、政策投資に充てられる財源の弾力性が確保されている状態です。行政サービスはデジタル技術の活用により効率化され、市民満足度が高いと評価されます。

定量的な目標設定の例

  • 経常収支比率が95%以下に改善される。
  • 将来負担比率が50%以下に削減される。
  • 実質公債費比率が5%以下に改善される。
  • 市税収入が安定的に増加し(例:年平均1%以上の増加率維持)、歳入構造の多様化が進む。
  • 行政コストが継続的に削減され(例:年平均0.5%削減)、市民一人当たりの行政サービス費用対効果が向上する。

4.3. 安全で快適な都市インフラの維持

理想の横浜では、老朽化インフラの計画的な更新・修繕が着実に進み、主要インフラの健全性が維持されている状態です。予防保全が徹底され、下水道管きょに起因する道路陥没などの事故件数が大幅に減少(例:年間10件以下)します。災害に強く、レジリエンス(回復力)の高い都市インフラが整備され、市民が安心して暮らせる環境が確保されます。

定量的な目標設定の例

  • 布設後50年以上経過した下水道管きょの更新率が年間5%以上で維持される。
  • 道路陥没事故件数が年間20件以下に削減される。
  • 公共施設全体の長寿命化計画に基づく更新・改修の進捗率が計画達成率90%以上となる。
  • 橋梁やトンネルの健全度が向上し、緊急点検が必要な施設の割合が5%以下に減少する。

4.4. 多様な産業が活性化する経済

理想の横浜では、既存産業の競争力強化と、新たな成長産業(例:IT、バイオ、環境技術)の創出により、市内総生産が持続的に成長し、多様な雇用が生まれている状態です。就業率が向上し、女性や高齢者も活躍できる労働市場が形成されています。観光は年間を通じて安定した集客を誇り、経済全体への波及効果が高い都市となります。

定量的な目標設定の例

  • 実質経済成長率が年平均2%以上で維持される。
  • 就業率が全国平均以上(例:55%以上)に改善される。
  • 観光客数(宿泊客数)が年間2000万人以上に増加し、リピーター率が向上する。
  • スタートアップ企業の設立数が年間100社以上となり、イノベーション創出が加速する。

5. 結論と提言

横浜市は、その広大な面積と約377万人という日本最大の人口規模、そして強固な経済基盤を持つ大都市であり、計り知れない可能性を秘めています。しかし、本稿で分析したように、人口減少・少子高齢化、財政硬直化、都市インフラの老朽化、地域経済の潜在的課題への対応といった、複数の構造的な課題に直面しています。これらの課題は相互に深く関連しており、一つが他の課題の解決を阻害し、あるいは悪化させる複合的な性質を持っています。

2025年の横浜市長選挙は、これらの複合的な課題に対し、短期的な対症療法ではなく、長期的な視点に立った、データに基づいた政策立案能力と実行力を持つリーダーを選ぶ極めて重要な機会となります。次期市長には、以下の提言に基づいた取り組みが強く求められます。

  • 課題の優先順位付けと統合的アプローチ
    人口減少対策と財政健全化は、他の都市課題への投資余力を生み出すための基盤となるため、喫緊の課題として優先的に取り組むべきです。例えば、生産年齢人口の減少による税収減と社会保障費の増大という二重の財政圧力を緩和するためには、子育て支援による出生率向上と、高齢者の社会参加促進による労働力確保、そして行政運営の徹底的な効率化を同時に進める必要があります。
  • データに基づいた政策立案と進捗管理
    本稿で提示したような定量データと、各課題が解消された場合の「理想の横浜」の姿で示した具体的な目標設定は、政策の有効性を評価し、PDCAサイクルを回す行政運営の基礎となります。候補者は、自らの政策がこれらの目標にどのように貢献するのかを明確に提示し、その実現可能性を市民に説明する責任があります。
  • 市民との対話と合意形成
    財政再建やインフラ更新には、市民への負担増や公共サービスの再編など、痛みを伴う可能性のある改革が含まれることがあります。このような改革を円滑に進めるためには、課題の現状と将来像を市民と共有し、幅広い合意形成を図るための透明性と対話に基づくリーダーシップが不可欠です。
  • 多様な主体との「共創」の推進
    市単独で全ての課題を解決することは困難です。国や民間企業、市民、大学、NPOなど、多様な主体との連携を強化し、都市全体の知恵と活力を結集する「共創」の姿勢が求められます。例えば、経済活性化においては、スタートアップ支援やMICE誘致に加えて、地域の中小企業や商店街の活性化にも注力し、市民の消費を喚起する内需拡大策を講じることが重要です。

横浜市が「理想の横浜」を実現するためには、これらの戦略的な投資と改革を継続的に実施していく必要があります。次期市長には、現状を深く理解し、未来を見据えた明確なビジョンと、それを実現するための具体的なロードマップを示すことが強く期待されます。これにより、将来世代に豊かな横浜を引き継ぎ、持続可能な発展を遂げる都市としての地位を確立できるでしょう。

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