1. トップ
  2. 日本の課題
  3. 財政

日本の財政課題

Finance

日本の財政状況

国債残高とGDP比率

日本の国と地方の長期債務残高は約1,300兆円超(GDP比 約210%)で、主要先進国の中で最も高水準にあります。

出所:財務省 長期債務残高の推移

国債の保有者構成

日本は自国通貨建ての国債を国内で消化している点が特徴で、海外依存度は低い状況です。国債の保有者は、日本銀行(約50%)、金融機関、年金・保険など国内投資家が中心。

国債等の保有者別内訳

  • 日本銀行: 51.7%
  • 銀行等: 13.6%
  • 生損保等: 17%
  • 公的年金: 6%
  • 年金基金: 3%
  • 海外: 6%
  • その他: 2.4%

出所:財務省 国債等の保有者別内訳 【令和7年3月末(速報)】

金利と金融政策

  • 日銀の金融緩和(YCC:イールドカーブ・コントロール)により長期金利は歴史的に低位で推移した。
  • 超低金利により、巨額の国債残高を抱えても利払い費は比較的安定。ただし、金利上昇局面では財政負担が急増するリスク。

出所:財務省 国債金利情報

財政収支

  • プライマリーバランス(基礎的財政収支)は赤字。政府目標では「2025年度までに黒字化」を掲げていたが、現状では達成困難。
  • 歳入の約3割は国債発行に依存。歳出の多く(2025年度)は社会保障費(約38兆円)、国債費(約28兆円)、地方交付税交付金(約19兆円)など。

一般会計歳出総額:115.2兆円

  • 社会保障: 38.3兆円 (33.2%)
  • 地方交付税交付金等: 18.9兆円 (16.4%)
  • 防衛: 8.7兆円 (7.5%)
  • 公共事業: 8.7兆円 (5.3%)
  • 文教及び科学振興: 5.7兆円 (4.9%)
  • その他: 9.4兆円 (8.2%)
  • 国債費: 28.2兆円 (24.5%)

出所:財務省 一般会計歳出の内訳

財政の何が問題なのか?

巨額の国債残高

→ 金利が上昇すれば利払い費が急増し、財政の持続可能性が揺らぐ。

金利が1%上昇すると、利払い費は約3.7兆円増加すると試算されています。(財務省による試算)

例えば10年国債の金利が(2025/8/25現在)1.62%が2%へ上昇した場合、 +0.38 ポイント上昇(2.00-1.62)。「1% 上昇で +3.7 兆円」との計算ですから、

0.38 × 3.7 ≈ 1.41兆円

利払い費は約1.41兆円増加する計算になります。つまり金利上昇局面では財政負担が急増するリスクがあります。

※毎年約1/9~1/10くらいの長期債が借換えで“新しい金利”に置き換わります。さらに短期国債(TB/FB)は即時に近いスピードで金利が反映されます。 財務省はこうした借換え+新規発行の合計(=数年で金利が乗り換わるストック)を見積もり、それに「1%(=0.01)」を掛けることで年あたり利払い増を機械的に計算していると思われます。

3年間で金利が乗り換わる元本が約370兆円規模だとすれば、 0.01 × 370兆円 = 3.7兆円/年 の増加、という計算になります。 実際、平均償還年限(≒9.5年)なら3年で約3/9.5 ≒ 32%が乗り換え。これを1000兆円超の母集団に掛けると 約320兆円+ α(短期分・新規発行分)となり、数百兆円規模が“新金利”に晒される計算です。これが3.7兆円という数字の大まかな根拠と想定。

社会保障費の増大

→ 高齢化に伴い医療・介護・年金が増え続け、歳出構造が硬直化。若年層への教育・投資が相対的に削られる。

2025年度の社会保障費は38.3兆円 (33.2%)と歳出の約3割を占めています。今後も高齢化が進む中で、社会保障費はさらに増加する見込みです。

成長率の低迷

→ 税収基盤の拡大が進まず、財政再建の余地を狭めている。

バブル崩壊後の低成長が続き、名目GDPはほぼ横ばいで推移し、税収が伸び悩み、財政再建の余地が限られてきました。

財政健全化の信頼性不足

→ 政府はプライマリーバランス黒字化を掲げるが、具体的な歳出改革や増税方針は不十分。国際的な「財政規律への信認」を維持できるか懸念。

国際的な信用が低下すれば、国債の金利上昇や為替の不安定化を招くリスクがあります。円が売られれば円安になり、輸入物価が上昇し、国民生活に悪影響を及ぼす可能性があります。

豊富な対外純資産あるから大丈夫?

→ 2024年度末に対外純資産が533兆500億円、(対前年末比+60兆8,613億円、+12.9%)に達しました。金利が上がることで、資産の運用益も増える可能性があります。

単純計算だが、

1330兆円 - 533兆円 = 797兆円

実質的な負債はおよそ797兆円という考え方もできます。

この考え方では 797兆円 ÷ 616兆円(2024年の名目GDP)× 100 = 129%のようにネット(債務から資産を引いた額)の政府債務残高対GDP比は約129%になります。

「利払い増=歳入増で相殺できるのか?」

→ 金利上昇に伴い、国債の利払い費が増えてたら、資産の運用益も増えるのでは?という議論があります。

部分的にはYes:資産サイド(外貨準備・貸付債権・日銀保有分)のおかげで、金利上昇による国債費増加は緩和されます。

完全にはNo:日本政府の資産利回りは負債コストより低いことが多く、借入の増加コストを完全にカバーできるわけではありません。 特に、短期国債の比率が高い場合や、市場金利が急騰する場合は利払い負担の増加の方が上回るリスクがあります。

過度な期待は危険

→ 対外純資産があるからそこまで深刻ではない、という意見もありますが、実際には流動性や運用リスクを考慮する必要があります。さらに、資産があるからといって本質的な財政的な持続可能性の問題は解決しません。

国債市場では 総債務額やGDP比が重視され、純負債視点だけで「市場が安心」とはならない場合もあります。

歳出・税制改革と経済成長の両立は不可欠であり、対外純資産に過度に期待するのは危険です。

増税は不可避なのか

今、増税すると景気が悪化して税収も減るのでは?

  • 直近の物価は目標2%を上回る水準で推移(コアCPIは2025年夏時点で3%超)。日銀はマイナス金利を終え、直近(2025年8月)では長期金利1.6%まで上昇してきました。急な増税は需要にマイナスで、金融正常化と相まって過度に景気を冷やすリスクがあります。
  • IMF・OECDも、日本の財政再建は景気がしっかりするまで段階的に、かつ成長力を損ねない構成で進めるべきとしています。
→ 増税を急ぐと景気悪化のリスクがあるため、段階的かつ成長を損なわない形での財政再建が求められます。

実務的な「順番」と目安

Step A:経済の立て直し(〜短期)

  • 物価と賃金の好循環を定着:名目ではなく実質賃金のプラス化が複数四半期継続、家計消費の持ち直しを確認。
  • 当面は低所得層向け給付・負担軽減は限定的・時限的に(逆進性対策)しつつ、恒久的な増税は避ける。IMFも2025年は成長・賃上げの持続を重視。

Step B:歳出の見直し(短期〜中期)

  • 行政DX・医療DXで単価とボリュームの双方にメス(重複補助・長期入院の是正、在宅・予防の推進)。
  • 補助金・税制優遇のゼロベース見直し(効果検証で打ち切り/縮減)。OECDは歳出効率化と労働参加率引上げを併走させるべきと提言。

Step C:社会保障制度改革(中期〜長期)

  • 医療・介護の適正化(受診頻度・入院日数の国際比較で改善余地)、給付と負担の世代間バランス修正。
  • 年金はマクロ経済スライドの運用厳格化と就労促進で支え、全世代型への転換。OECDは中期の信認ある計画の必要性を強調。

それでも必要になる場合の「増収策」

→ 時期:上のStep A・Bが進み、プライマリーバランスが概ね解消/実質賃金のプラスが定着してから(景気に非連動の恒久増税は避ける)。

  • 広い税基盤で歪みの小さい税目(将来的な消費税の段階的引上げ)を軸に、低所得層への還付(給付付き税額控除等)で逆進性を相殺。OECD・IMFの推奨に合致。
  • 同時に資産課税のベース広げ(相続・金融所得の見直し、富裕層の抜け穴封じ)、国際的な法人課税ルールに整合。
  • 増税前に歳出改革の成果を可視化(「先に削る」を示す)ことで政治的受容性を高める。

増税を避けつつ、財政再建するには?

→ 増税なしで財政再建するには“複数の好条件”がそろう必要があります。 鍵は

「債務ダイナミクス(利子率 i と名目成長率 g の関係)× 歳出改革の実行力 × 税外収入の拡大」です。

債務ダイナミクス:長期金利と名目GDP成長率とプライマリーバランスの関係

基礎的収支(PB)の計算は以下の式が用いられます。

PBig1+g×bPB^{*} \approx \frac{i - g}{1 + g} \times b
  • PB = プライマリーバランス(基礎的財政収支)
  • b = 政府債務残高の対GDP比
  • i = 国債の平均金利(10年国債利回りを使用することが多い)
  • g = 名目GDP成長率

例:i<g(i=1%、g=3%)債務比率 b ≈ 2.6(=260%)の場合

PB0.010.031.03×2.6PB^{*} \approx \frac{0.01 - 0.03}{1.03} \times 2.6
0.05(=−5%)\approx -0.05\text{(=−5\%)}

→ PBがGDP比▲5%(=赤字5%)未満なら、債務比率は安定して下がる
GDPの方が早く膨らむので、借金比率は自然に低下します。

例:i>g(i=3%、g=2%)債務比率 b ≈ 2.6(=260%)の場合

PB0.030.021.02×2.6PB^{*} \approx \frac{0.03 - 0.02}{1.02} \times 2.6
0.025(=2.5%)\approx 0.025 \text{(=2.5\%)}

→ GDPの2.5%相当のPB黒字が必要。
国が毎年「税収−支出」で2.5%分の黒字を出さないと、借金比率は増えていきます。

→ 債務が大きい国ほど、i−g のわずかな差がPB必要額を大きく動かします。

PB が負の値 → 国が毎年「税収−支出」で赤字でも、経済成長の方が勝っていれば債務比率は自然に低下します。
PB が正の値 → 債務が増えるペースを抑えるには、毎年 PB を黒字(GDP比でPB*以上) にする必要があります。

現状の日本の債務ダイナミクスは?

  • b = 211%(政府債務残高の対GDP比)
  • i = 1.62%(10年国債利回り(2025/8/25現在))
  • g = 3.7%(2024年度名目GDP成長率)
PB0.01620.0371.037×2.11PB^{*} \approx \frac{0.0162 - 0.037}{1.037} \times 2.11
0.423(= -4.23%)\approx -0.423 \text{(= -4.23\%)}

上記、計算では国のPBが0のとき、対GDP債務比は 約4.23ポイント低下します。PBが対GDP比で ▲2%(赤字)のときでも、対GDP債務比は 約2.23ポイント低下します。

→ ここ数年はインフレの影響による名目GDPの押し上げで 債務比率が自然に低下傾向にあります。

「恒久増税なし」ルート成功条件

i≤g を継続

  • 名目成長(実質成長+インフレ)を少なくとも金利と同等以上に保つ。
  • 賃上げの持続、設備投資・生産性の底上げ、価格転嫁の定着などが前提。

現実的な示唆:

  • もし金利が 2%前後で安定すると仮定すると、名目GDP成長率が少なくとも2%台後半〜3%台(=実質成長+物価上昇の合計)が欲しいケースが多く、これを恒常的に満たすのは容易ではありません。
  • したがって「増税ゼロで済ます」には①名目gをかなり高める(複数年連続で実質成長+賃金上昇を定着)②歳出で毎年GDP比で合計1.5〜3.0%程度の恒常改善を生むかまたはその組合せが必要になります。

PB赤字の圧縮(=歳出効率化と制度改革)

粗い目安として、政策努力で恒常的に 1.5〜3%/GDPの改善(歳出削減+経済成長で自然に増える税収) を出せれば「増税なし」の現実味が出ます。

内訳イメージ:

  • 行政・医療DX、補助金・優遇税制のゼロベース見直し:0.5〜1.0%/GDP
  • 医療・介護の適正化(入院長期化の是正、予防・在宅シフト、薬価・診療の高度な評価改革):0.5〜1.0%/GDP
  • 年金の就労促進・マクロ経済スライドの運用厳格化、給付と負担の世代間バランス調整:0.3〜0.7%/GDP
  • 企業統治・規制改革・人への投資で成長率上振れ(gの押し上げ):税収自然増に相当(0.3〜0.8%/GDP)
→ 将来的な増税を避けつつ、持続的に財政再建することは不可能ではないが、実務的なハードルは高い。

目標設定は「債務比率の安定+徐々に低下」が現実的

・日本のような高債務国は、金利が低い状態ではPBが赤字でも債務比率を減らせる可能性があります。
・重要なのはPB赤字を制御不能に増やさないこと、そして経済成長を確保すること。

→ 具体的には「PBが対GDP比 -2〜-1%程度で推移」し、名目GDP成長が金利を上回る状態を維持すれば、債務比率は徐々に低下します。

成長を重視

  • 名目GDP成長(実質成長+物価上昇)を 2〜3%程度確保できれば、赤字PBでも債務比率は減少可能。
  • 成長投資(インフラ、DX、教育、研究開発)や規制緩和で民間投資を呼び込み、雇用・賃金を増やす。

歳出効率化・制度改革

  • 高齢化関連や補助金の無駄を改善し、PB改善効果を恒常的に作る。
  • 直接的に黒字化する必要はないが、赤字幅の拡大を防ぎ、債務比率低下の余力を確保。

金利リスク管理

  • 長期金利の急上昇リスクを常に監視。
  • 必要に応じて市場信認を維持する財政ルールや、保険的な歳出改善策をあらかじめ仕込む。

政策フレーム

  • 経済成長確保 → 名目3%程度を中期目標
  • PB赤字を制御可能に維持 → -2〜-1%/GDP程度
  • 歳出効率化・制度改革 → 赤字拡大を防止、債務比率低下を補助
  • 金利・市場信認監視 → 必要なら段階的調整(限定的増税も視野)

メリット

  • 国民経済を疲弊させずに債務比率を減らせる
  • 成長投資と社会保障を両立できる
  • 将来の金利上昇に備えつつ柔軟な財政運営が可能
→ 成長・歳出効率化・制度改革で赤字幅をコントロールするのが最も現実的。

ただし将来的に日本経済が成長局面に入ると考え方を変える必要があります。安定的に成長が見込めるようになると、金利上昇が想定されます。その場合、金利が名目成長率を上回る局面に入る可能性が高くなります。

→ 経済が加熱して金利が成長率を上回ると、インフレ効果では抑えきれない。この場合は、通常のPB黒字化を狙って財政規律を強める必要あります。

今の日本(名目成長率>金利局面)では

  • インフレ加味PBを目標に
  • 子育て支援・生産性向上投資などワイズスペンディングを積極化

将来(名目成長率<金利局面)では

  • 通常のPB黒字化にシフト
  • 債務膨張を防ぐ

具体的な目標設定例

名目GDP成長率

2024年度

最新
3.7%
目安: 3%

実質GDP成長率

2024年度

最新
0.8%
目安: 1%

10年国債利回り

2025年8月25日現在

最新
1.62%
目安: ≦ 2%

政府債務残高の対GDP比

長期債務残高/名目GDP

最新
211%
目安: ≦ 150%

政府債務残高の前年比

政府債務残高が改善した割合

最新
-3%
目安: -2% 〜 -1%

データについて

  • 10年国債利回りの目安は名目GDP成長を下回るような値に設定しております。
  • 政府債務残高の対GDP比の目安は2050年以降を見据えた値に設定しております。

将来の財政シナリオの例

前提条件

2025年時点のデータ

名目GDP: 634兆円

国債残高: 1330兆円

GDP比率: 約211%

金利: 1.8%(将来予測の平均と仮定)

計算ルール: 名目GDPは毎年3%ずつ成長すると仮定

プライマリーバランス(PB)の対GDP比は、毎年0.2%ずつ改善すると仮定

→ このシナリオはあくまで一例であり、実際の経済状況や政策変更により大きく変動する可能性があります。毎年3%ずつ名目GDPが成長するという前提は楽観的であり、現実には成長率が変動することが予想されます。また金利も市場の動向により上下するため、将来の債務比率の推移は不確実性を伴います。

あなたの声が、社会課題の解決につながる。

「こんなこと困ってる」「もっとこうなれば」地域の社会課題や日常の悩みに関する声を募集しています。

投稿する